機械学習による工場作業の自動化は急激に進んでおり、その波はもちろん自動車製造の分野にも訪れています。近年ではついに人の手で行われる職人技といえる作業を自動化することさえも可能となってきました。
こうしたAI活用の技術はすでに大手の自動車メーカーにも取り入れられ始めています。
今回はアウディでの機械学習導入例を見ていきましょう。
参考: Motor-Fan TECH | アウディ:プレス工場での品質検査にAIを導入へ
アウディが行う機械学習とは?
自動車メーカーのアウディは、工場での量産体制に機械学習を活用しています。アウディが開発を進めているソフトウェアは、プレス加工において金属板に発生する割れ目や傷を認識し自動でマークします。これらはすべて自動かつ高い精度で行われるため一連のスキャンをわずか数秒で終わらせることができます。
これによってアウディは人工知能を社内の様々な現場に応用し、量産体制における品質管理に革新をもたらすことを目指しています。
品質と効率性向上の両立が課題
従来は従業員による目視確認と、画像認識ソフトを利用した内視鏡検査で傷を見つけていました。しかし多くの現場では、「品質と効率性向上」の両面を維持することが非常に難しい課題となっています。
近い将来これらがすべて機械学習を応用した検査方法に代わる予定です。機械学習を導入した新たなチェックソフトは微細なクラック(亀裂やひび割れ)を見つけ、的確にクラックの場所をマークできるようになります。
複雑なデザインにも対応
自動車はより複雑で自由なデザインとなることが期待されています。アウディもその変化に対応するため同社が製造する車両の外形は複雑かつ洗練されたデザインになり、それと同時に要求される品質基準は高まっています。その中で高い基準をクリアするために、同社はプレス工場において加工後すべての部品をその場ですぐに検査するようにしています。
従来であればかなりの時間がかかっていたこのような点検作業も機械学習により検査体制が効率化されたことで運用が可能になります。
有識者も機械学習に期待
アウディAGの最高情報責任者(CIO)のFrank Loydl氏は「人工知能と機械学習はアウディの未来の技術のカギとなっている。この二つの開発や応用を進めることでアウディの高度デジタル化は持続可能なものになるだろう」と述べています。
さらに同氏は「この横断的なプロジェクトで、我々は自動品質検査ソフトを量産体制に導入できるレベルまで引き上げてきている。業界内では前例のないものだ」と延べ、アウディがこの領域での業界内における先行者となることに自信を示しました。
ディープラーニングにより膨大なデータの活用を可能に
アウディが導入を進めているシステムはディープラーニングをベースとしており、画像などの高次元なデータを大量に一度に扱うことが可能です。開発チームは数か月、数百万枚の画像を用いて開発ソフトの動作を確認していました。開発で大きな山場となったのは、ディープラーニングのモデル開発において問題となることの多い大量の画像データのデータベース化と、画像の「ラベリング」化であったそうです。
開発チームが与えたサンプル画像ではクラックがピクセル単位まで詳細にマークされていました。
その結果、驚くことに今やソフトが自動で微細なクラックをチェックできるようになり、さらには今までソフトが見たことがないようなクラックも検知できるようになりました。彼らが使用した数テラバイトにものぼるデータベースはすべてアウディとフォルクスワーゲンの工場で得られたものだそうです。
アウディのAIの今後の展望は?
このソフトウェアはコンセプトから試作まですべてアウディの自社開発で進められてきました。2016年中ごろからアウディITのイノベーション部門が量産技術部門と協力し開発を進めていたようです。将来的には、すべての品質管理作業が現在のスマートカメラを使用した目視確認から機械学習を用いたものへと代わると予測されています。
従来の品質管理作業の方法はかかる労力が大きく、ドアやボンネットからフェンダーまで、内視鏡をすべてのコンポーネントの隙間から通さなければなりませんでした。それだけでなく、画像認識プログラムがパーツにあたる光やパーツの表面の粗さに影響を受けやすく誤判定を起こすことも少なくなかったそうです。
そこでこれらの問題をアウディは開発している機械学習を用いたソフトウェアで解決しようとしています。また、将来的にはアセンブリ現場や塗装工場など、プレス加工品の検査だけにとどまらず様々なコンポーネントの検査もAIや機械学習を使って自動化ができるようになるようです。
自動車の生産から運転に至るまで、AIによるものとなる日もそう遠くないのかもしれませんね。