劇作家シェイクスピアは「人生は選択の連続である」という言葉を残しました。
小さな選択に大きな選択。生きているといたるところで選択を迫られます。そしてその中には、その後の人生が大きく変わってしまうような大きな選択もあるはずです。
「人生のターニングポイント」
人は岐路に立つと、いろいろなことを考えるでしょう。そんなとき、第一線で活躍している人たちが何を思って、どんな決断をしてきたのかを知ると、役に立つことが見つかるかもしれません。
今回は、AIエンジニアでありながらYouTuber、ヒューマンビートボクサーとしても活躍するTOMOKINさんにお話を伺いました。本業としてAIエンジニアで働きながらもパラレルキャリアを歩む彼は何を思って道を選び、どこへ向かっていくのか……?
【TOMOKIN】AIエンジニアとして働くだけでなくGoogle公式YouTuber、ヒューマンビートボクサーとしてマルチに活動。会社のプロジェクトで渡米し、AIに可能性を感じたことからAIエンジニアに転身する。チャンネル登録者数は24.9万人(2021年8月6日確認時)。
目次
パソコン音痴ながら配属先はIT部門。「こんなところで何してるんだろう?」
ーー大学を卒業して、どんな会社でキャリアをスタートしたんですか?
就職したのはとある大手企業のIT部門でした。これが1つ目のターニングポイントですね。
そもそも就職先に特別な志望動機は持っていませんでした。大学時代にヒューマンビートボックスに明け暮れていたので、一旦就職はするけれどいずれは得意なヒューマンビートボックスでプロとして食べていきたいと考えていました。だから就職先も「とりあえず」くらいの気持ちで選んだんです。
大学では法学部だったこともあり、配属先は法務部になるのかなと思っていましたが、配属されたのはIT部門。大学生のころの僕はパソコン音痴。エクセルでさえ苦手でしたし、プログラミングなんてしたこともありません。エンジニアにはなりたくないな、とさえ思っていました。
ーーとりあえず始めたキャリアとしてはかなり苦労しそうですね……。
新入社員研修から地獄でした。
今だからこそ笑えるけれど、と話すTOMOKINさん
Javaを使ったプログラミングの研修を受けていたのですが、内容が全くわからないんです。講師の先生は、キーボードのどこに何のキーがあるとか、ショートカットキーなど当然わかっている前提で進めるので、それすら分からなかった僕はめちゃくちゃ苦労しました。
そんな状態だったのもあって、ふと「好きなことに熱中していた大学時代はあんなに刺激的だったのに、自分はこんなところで何をしているんだろう?」って思いながら働いていました。
ーー大学生時代とのギャップに悩まれていたんですね。
そんなモヤモヤした気持ちで働いていたある日、に突然YouTubeから大量の通知が届きました。これが2つ目のターニングポイントになった出来事です。
ーー一体何があったんですか……?
大学時代に撮影したヒューマンビートボックスのパフォーマンス動画を数本だけ、ホームビデオ的にアップロードしていました。通知のきっかけになったのは、アカウント名を「TOMOKIN」にしていたことなんです。
有名YouTuberの名前パクリ疑惑でアップロードしていた動画が大炎上
ーーヒューマンビートボクサーとしても活躍しているあの有名YouTuberに似ていますね……。
僕は本名が友金(ともがね)で、子どもの頃からトモキンというあだ名で呼ばれていたので、それを使ってアカウント名を「TOMOKIN」にしていたんです。
当時ちょうどHIKAKINさんが有名になったころでした。そこに、よく似た名前のTOMOKINというアカウントが、ヒューマンビートボックスの動画を上げている、ということで大炎上。「HIKAKINのパクリじゃん。早くやめろ!」という旨のコメントが大量に届いたんです。
僕はこの炎上をきっかけに、それまで知らなかったYouTuberという存在を知り、日本のトップYouTuberがHIKAKINさんであることも知ることになりました。
TOMOKINさんが最初にアップロードしたボイスパーカッション動画。めちゃくちゃかっこいい
最初は炎上に驚いて「アカウントを消したほうがいいのかな……」と悩んだんですが、YouTuberが広告で収入を得ていること、つまり好きな動画をアップロードして食べていけるという生き方に魅力を感じてしまいました。そこで、「この炎上をきっかけに、YouTuberになったら伸びるかも」とひらめいたんです。
ーーめちゃくちゃタフな選択をしますね(笑)。
元々「人を見返してやろう」という気持ちが強かったんです。中学生ぐらいのときはめちゃめちゃ太っていて、体型のことをからかわれることがよくあったんですが、「見返してやる」って気持ちでダイエットして、25キロ痩せたこともあります。
人当たりの良さそうな印象とは裏腹に、見返す機会を虎視眈々と狙う一面も
ーー実際に見返すことができた成功体験があるからなのかもしれませんね。
炎上後、YouTubeに動画を上げ始めてからは、大学時代に味わったような刺激的な毎日を送ることができました。
ヒューマンビートボックス講座のようなハウツー動画を上げ続け、日に日に増える登録者数を眺めてとてもワクワクしていました。また、動画をきっかけにヒューマンビートボクサーとしてイベントにもお誘いいただき、学生時代よりもさらに刺激的な時間を過ごしていたんです。
YouTube活動が苦境。そんな中、訪れたターニングポイントは?
ーー働きながらもYouTuberとして活動する道を選択して、刺激的な日々を取り戻すことができたんですね!
ところがまたモヤモヤ期が訪れました。
増え続けたチャンネル登録者数が、徐々に頭打ちになってくるんです。そもそも「ヒューマンビートボックスをやりたい!」と思っている方の数には限りがあるので、登録者数にも限界が来てしまったんですよね。
毎日動画を投稿して、内容も工夫していたのに登録者は増えるどころかむしろ減っていく……。いくら考えてもどうすればいいのかわからない。ヒューマンビートボックスだけではやっていけない。何か別のことを掛け合わせなければいけないのかな、と思いました。
試行錯誤を重ねたTOMOKINさんのYouTubeチャンネル
ーーYouTuberも楽しいばかりでなく、厳しくもある世界なんですね。
そこで大学時代に得意だった英語のことを思い出しました。「英語を使えば日本だけでなく、海外にもヒューマンビートボックスの魅力を伝えられる」と思い、改めて英語の勉強を始めたんです。
そんな矢先、アメリカに渡るチャンスが訪れました。3つ目のターニングポイントですね。
会社で新規事業の可能性を模索するために、アメリカへ駐在するエンジニアを募集していたんです。僕はこの募集で抜擢され、アメリカへ渡ることになりました。それまで旅行ですら海外へ行ったことはなかったのでかなり迷ったんですが、最終的には参加しようと決意しました。
ーーこれもまたタフな決断ですね……。
新しいものにはとにかく飛びつこうという気持ちでいたんです。YouTubeのこともありましたし、新しいものにチャレンジすることで刺激的な日々を過ごせると思っていたので。
ただやはり、初めての海外生活はとても大変でした(笑)。海外がどういうところなのか分からず飛び込んだので、日常生活においても仕事においても苦労することは多かったです。
ーーそんな大変だった中、新規事業を模索するミッションはどうなったんですか?
新規事業のためのビジネスアイディアを探すために、様々なカンファレンスを訪れました。そこで当時(2017年)「これから来るだろう」と多くの人が口を揃えていたのが「AI」「IoT」「ブロックチェーン」という3つの技術です。特にAIに関しては市場の期待も大きかったですね。
「人間に代わってAIが仕事をする。AIが人間の仕事を奪うことになる」と言われていて、「事業に活かすとどうなるんだろう。自分たちで作れたらどんなに役立つんだろう」と、とても興味が湧いたんです。
AI技術を扱うベンチャー企業もいくつも見て回って、AIに関するビジネスアイディアを日本に持ち帰ることができました。帰国してからはAIプロジェクトにアサインされ、今ではAIエンジニアとして働いています。
ーーJavaの研修に苦労していた当時からするとすごい飛躍ですね。AIに関するプログラミングはいつ勉強したんですか?
帰国してから独学で身につけました。
プログラミングは1つの言語を習得すると他の言語も習得しやすいので、AIのプロジェクトに携わりつつ、Pythonという言語を学んでいました。やりたいことをどう実現するかを調べながら学んでいく際には、Aidemy Magazineのソースコードを載せている記事を参考にさせていただいたりしました。
今は、故障検知や需要予測などのAIモデル作成プロジェクトに携わっています。
AIだけではなくRPA(Robotic Process Automation)も使っています。「AIは人間に代わって仕事をする」の言葉通りコストカットに貢献できて、自分の仕事がどれだけ会社に貢献できたのか目に見えてわかるので、今ではやりがいをもって働いています。
新しいもの、興味のあるものを見つけたら飛びついた方がいい
ーーTOMOKINさんは今後どのように活動していきたいか考えていますか?
やはり新しいものをどんどんキャッチアップして、自分で触れてみて、刺激的な毎日を過ごしたいと思っていますね。
「YouTubeもAIも、新しいものが刺激をくれました」
新しいものに飛びつこうと思って始めたYouTubeですが、実はAIエンジニアとしての活動と相互に好影響を与え合っているなって思うんです。
今ではAIエンジニアとしての知見を活かしてYouTubeではAIやITに関する情報を発信しているのですが、視聴者の方からいただいた質問に答えることで新たな気付きを得ることもあります。また、普段プログラミングをしていると、人と話す機会は自然と少なくなりがちなんですが、YouTuberとして動画を作成することでプレゼンテーションのスキルが磨けてもいます。
今は会社の中だけでAIのモデルを作っていますが、今後は会社の外の人たちにも使ってもらえるようにできるといいなと思います。例えば予測分析モデルを作って、YouTubeに動画を上げることでいろんな方たちに使ってもらえるような。
ーー新しいことを取り入れる中で、今持っているものにも好影響があるのはパラレルキャリアの恩恵の1つですね!
僕はキャリアに関してあまり気負って考えないほうがいいと思っているんです。
キャリア、キャリアって考えることで「いつまでにこの言語をマスターしなきゃ」って気負ってしまい、逆に早期にリタイアしてしまうような方もいらっしゃると思うんです。でも意外と、自分が楽しいなって思えるような興味のあることを、なんとなくでもいいからやり続けることのほうが大事だと思うんですよね。
1回きりの自分の人生、真面目に考えるあまり気負いすぎてしまうことも多いのではないでしょうか。
「気負わずに、自分の興味が湧くものをなんとなく続けてみるといい」
TOMOKINさんの言葉は楽観的にも見えますが、選択肢が無数にある今の時代を止まらずに進んでいくために必要な言葉なのかもしれないなと思います。
気負いすぎて疲れてしまった方、決断することが怖くて一歩が踏み出せない方にはTOMOKINさんのような生き方も参考になるところがあったのではないでしょうか。
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YouTube(TOMOKIN – Ryota Tomogane –)