日本は平均寿命が過去最高を更新した一方で、医療費を含む社会保障費の増加、税金負担世代の減少が社会問題となりつつあります。また、平均寿命が伸びたことに比例して健康寿命を伸ばす取り組みが行われています。
その課題を解決するべく開発されたのが、生活習慣病リスク予測AIです。ヘルスデータとビッグデータ解析技術を融合させた予測AIは、今後の社会にどのような影響をもたらすのでしょうか。
それぞれの強みを生かした共同開発
SOMPOホールディングスグループと東芝グループは糖尿病などの生活習慣病リスクを予測するAIを共同開発しています。SOMPOホールディングスグループは既存事業で培ったヘルスケアサービスについてのノウハウを持っていました。
一方東芝は大学の研究室とのパイプを持っているため、SOMPOホールディングスでは扱えない研究データを保有していました。さらに、従来東芝は工場の稼働率などを予測する「時系列分析」など産業用途のAIに強みを持っています。この「時系列分析」を応用することで、人間が病気になる過程を時間を追って予測できる可能性があったため、共同開発が始まりました。このAIは2型糖尿病・高血圧症・脂質異常症の3つの生活習慣病リスクを予測することができるようです。
日本の医療の現状
日医総研のリサーチによると、日本には人口1000人あたり医師は2.4人存在します。これは医師一人あたり400人以上もの患者を抱えている計算になり、この数字はOECD国平均3.5人と比べても大変低い数字です。そうした医師不足のなかでAIによって病気が予防されることによるメリット
- 医療施設における混雑の改善
- 遠隔医療の促進
- 属人的な診断ミスの解決
医療AIの開発に必要なデータ
生活習慣病リスク予測AIの開発には、健診データや定期健康診断後の通院で受けた治療や投薬のデータが必要です。日本では国が企業に定期健康診断を義務付け、従業員は毎年健康診断を受けるためデータに明確な連続性があります。そしてSOMPOホールディングスグループは、全国約500の健康保険組合に特定保健指導を行っており、そうした連続性をもつデータを最大限利用することができます。今回は研究協力機関などの約100万人分の最長8年の健診データをもとに新たな技術を開発しました。
また医療分野のAI開発では、データの連続性と同時にその質も重要なポイントになります。東芝が従来研究してきた産業用途のAIなどとは異なり、医療・ヘルスケア用途のAI開発は膨大なデータをそのまま解析しても十分な精度は出ません。人間に関わる情報は日々変動する生体情報に加え、食生活や生活習慣の変化といった環境因子が関わっており予測の結果にズレが生じるためです。予測に正確性を持たせるためにはデータクレンジングや医学的知見などを取り入れる必要があります。
海外との比較
アメリカなどの自由診療型では一度医者にかかる際の医療費が高いため必然的に民間のサービスとしてのヘルスケアが進んでいます。そのため研究としてはアメリカなど海外のAIが日本より先行しています。
一方、データの質は日本の方が上回っています。それは日本のように毎年健診を受ける国はほとんどないためです。連続性が重要な医療AIのデータにおいて日本の継続的で質の高い健診データは強みであるといえます。
今後の展望
研究チームはこの結果をもとに生活習慣病リスクを予測するAIの精度向上に加えて、食生活や運動習慣改善などに行動変容を促すためのサービス開発を進める予定です。
また糖尿病発症後の重症化を予防するためのサービスに向けたアルゴリズム開発や、予測できる生活習慣病の範囲拡大に向けたAI開発・強化を目指すとしています。