はじめに
2019年3月に発表された、政府のAI戦略をご存知でしょうか? 政府は現在「Society 5.0」という考え方を提案し、この実現を通して世界規模の課題(SDGs)の解決に貢献することを目指しています。それと同時に、日本の抱える社会課題を他国に先駆けて解決しようともしているのですが、この双方を叶える手段の一つとして、人工知能をはじめとしたテクノロジーを活用することを目論んでいます。そしてそのための具体的な計画などを盛り込んだものが、「AI戦略 2019」なのです。
2020年10月現在、新型コロナウイルスの流行や、東京オリンピック・パラリンピックの延期、首相の交代など、予想外の出来事が次々と起きています。新内閣では、平井卓也議員がデジタル改革担当大臣に任命され、2022年のデジタル庁新設に向けて動き出しています。今後のAI戦略はより速いスピード感で動き出していくでしょう。その中で「AI戦略 2019」が指針になる可能性は十分にあります。どんな内容だったか、ここで一旦振り返ってみましょう。
「AI戦略 2019」4つの戦略目標
改めて、「AI戦略 2019」の目的は「Society 5.0の実現を通じて世界規模の課題の解決に貢献するとともに、我が国自身の社会課題も克服するために、今後のAIの利活用の環境整備・方策を示すこと」にあります。
そしてそのために、AIを取り巻く、 教育改革、研究開発、社会実装などを含む、統合的な政策パッケージを策定するのが「AI戦略 2019」ということなのですが、国として具体的に動くために、以下の4つの戦略目標が設定されました。
戦略目標1
我が国が、人口比ベースで、世界で最もAI時代に対応した人材の育成を行い、世界から人材を呼び込む国となること。さらに、それを持続的に実現するための仕組みが構築されること
戦略目標2
我が国が、実世界産業におけるAIの応用でトップ・ランナーとなり、産業競争力の強化が実現されること
戦略目標3
我が国で、「多様性を内包した持続可能な社会」を実現するための一連の技術体系が確立され、それらを運用するための仕組みが実現されること
戦略目標4
我が国がリーダーシップを取って、AI分野の国際的な研究・教育・社会基盤ネットワークを構築し、 AIの研究開発、人材育成、SDGs の達成などを加速すること
つまり、
①人材
②産業競争力
③技術体系
④国際
の4分野において目標を設定し、その達成に向けてより細かい取り組みを作っていくという流れですね。いずれの目標においても、多様性、持続可能性などの理念が尊重されていることがわかります。それでは、具体的な取り組みについて見ていきましょう。
教育改革
AI戦略の中でも最も大きく私たちの生活や社会に関わってくるのが、この教育改革でしょう。すでに小中学校の教育現場では、プログラミング教育が導入されつつあります。しかし、AIを活かすことのできる、より高度な人材を育成・確保するためには、より広い範囲でより高度な教育が求められているのです。それは小中学校のみならず高校や大学でも、そして社会人まで幅広くAIリテラシーを学ばせるという改革に繋がります。
「数理・データサイエンス・AI」のスキルは、デジタル社会での「読み、書き、そろばん」と言ってもよいほどの基礎的な力になるでしょう。そして、社会のあらゆる分野でAI人材が活躍することを目指し、2025年の実現を目指して、今後の教育には以下の目標が設定されました。
・全ての高等学校卒業生が、「理数・データサイエンス・AI」に関する基礎的なリテラシーを習得。また、新たな社会の在り方や製品・サービスのデザイン等に向けた問題発見・解決学習の 体験等を通じた創造性の涵養
・データサイエンス・AIを理解し、各専門分野で応用できる人材を育成(約25万人/年)データサイエンス・AIを駆使してイノベーションを創出し、世界で活躍できるレベルの人材の発掘・育成(約 2,000 人/年、そのうちトップクラス約100人/年)数理・データサイエンス・AIを育むリカレント教育を多くの社会人(約100万人/年)に実施(女性の社会参加を促進するリカレント教育を含む) 留学生がデータサイエンス・AIなどを学ぶ機会を促進
つまり、高等学校での教育などを利用してAI人材の裾野を広げ、その中からトップクラスの人材を見つけ出す、というのがこの提言の趣旨と言えるでしょう。毎年100万人の学生が高等学校を卒業すると考えると、かなりの数の国民がAIリテラシーを身につける計算になります。そのなかから更に専門分野で応用できる人材が育つなら、数、質ともに、これまでとは桁違いの人材が発掘されるはずです。
これらの教育改革における目標は、大学入試に「情報I」を採用したり、ITパスポート試験の出題を見直したり、高校などで活用するよう促進したりすることで、達成を目指していく予定です。
研究開発と社会実装
その他にも、「AI戦略 2019」では、研究開発体制の再構築や、社会実装についても提言を行っています。
例えば、研究環境の整備については、「AI研究開発ネットワーク(仮称)」の構築を示唆しています。これは、大学や先端企業だけでなく、理研AIPや産総研AIRC、NICT AI関連センターなどのAI中核関連センター群をも組み込んだ、大きなネットワークを指します。この抜本的な改革により、制度やインフラが改善・整備され、世界から見ても魅力的な研究環境となる見込みです。
また、次世代AI基盤技術等の、中核となる研究開発の立ち上げもいくつか計画されています。革新的なインフラやハードウェアの開発、または応用領域の連動研究などを、世界レベルに推し進めることが期待されています。
つまり、計算資源を強化したり、産学が連携したり、研究と勤務に関する制度と環境(サバティカル、報酬など)を整えることでより多様な高度AI人材が活躍できるようにする、という方針を指します。
また、社会実装の面では、日本が直面する最優先課題である、
- 健康・医療・介護
- 農業
- 国土強靭化(インフラ・防災)
- 交通インフラ・物流
- 地方創生(スマートシティ)
の5つの分野において、実世界でAIを活用させる構造転換を促進することを目標としています。そのために、AIを活用するためにデータ基盤を整備したり、各分野でのAI人材の育成、または技術の導入を目指した取り組みが提言されました。
まとめ
以上が、政府の「AI戦略 2019」の大まかな内容です。
参照元:
AI戦略 2019 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ai_senryaku/pdf/aistratagy2019.pdf
AI戦略 2019【概要】 https://www.maff.go.jp/j/kanbo/tizai/brand/attach/pdf/ai-15.pdf
Society 5.0 https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/