こんにちは、アイデミーの佐藤です。
「不妊治療」について皆さんはどのような考えをお持ちでしょうか?テレビ番組や電車の車内広告で不妊治療の話題を目にする機会が年々増えてきたように感じます。
多額の治療費がかかり大きな決断を伴う治療ですが、AIを活用することでこれまで以上に正確かつ低価格な診療を行うことができる可能性が出てきました。
今回は、不妊治療におけるAI活用に取り組むアメリカの事例をご紹介します。
主観に頼っていたこれまでの不妊治療
最先端の医療というと、ハイテクな機器を思い浮かべる方も多いと思います。しかし、技術が発展してきた今でも、かなりの部分を人の主観による作業に頼っている医療分野があるのです。
特に不妊治療における胚(分裂を始めた受精卵)の格付け作業は、コストや設備の関係もあり、多くの病院で胎生学者の手に頼っています。胎生学者は、顕微鏡で受精卵の形状や分裂の様子を観察し、どの胚を着床させるかといった優先度を決めるための点数化を行います。様々な指標があるとはいえ、あくまで学者の主観による判断であるため、人によって判断が異なるほか正確性にも限界がある状態です。
近年では着床前遺伝子スクリーニングという手法も開発されていますが、治療を受ける側としては、高額な不妊治療においてさらに数十万円以上の料金が追加される形となるため、現時点では導入するか迷うところでもあります。
米コーネル大学が胚格付けAIを開発
そこで、この手間がかかり精度にも懸念がある従来の格付け作業に、AIを活用できないかと考えたのがアメリカ コーネル大学の研究室です。コーネル大学のニキツァ・ザニノヴィッチ氏は1万を超える胚のデータを収集し、ニューラルネットワークに学習させました。
そうして開発されたのが胚の質を客観的に評価するAI「STORK(コウノトリ)」です。これまで人の手で行われ多大な労力と時間がかかっていた作業をAIに任せることで、精度の高い検査でも大きくコストカットすることが可能になります。
医学web雑誌「npj Digital Medicine」によれば、STORKは以下のようなプロセスで学習していきます。
まず、胚培養室より人間の胚の画像が提供され、胎生学者が妊娠の可能性に基づいてそれらを品質の良いものと悪いものに分類します。そして、抽出された画像のラベルと臨床情報を統合しアルゴリズムを用いて学習を行い、STORKの予測性能を評価します。
Pegah Khosravi et al. (2019). Deep learning enables robust assessment and selection of human blastocysts after in vitro fertilization
Pegah Khosravi et al. (2019). Deep learning enables robust assessment and selection of human blastocysts after in vitro fertilization より
このように、これまで糖尿病やがんの発見に活用されてきたAIの画像認識技術を不妊治療にも応用させて開発が行われました。
精度は約95%にまで上昇!臨床での導入まであと少し
その結果、STORKは95%を超える確率で質の良い胚と質の低い胚の分類に成功するようになりました。
米国大手雑誌 WIREDによれば、特に意見が別れる胚の判別において、実際の胎生学者たちが正しい分類結果を言い当てた割合は高くて70%、低いと25%です。この結果と比較すると、STORKは人の手による格付けに比べ格段に良い精度の結果を出すことができたと言えます。
この技術を実際の現場に導入するためには、まだこれから厳しいテストが必要です。着床後の胚の成長を長期的に観察し、アルゴリズムが実際に正確に働いているかの試験に向け、今もSTORKは対策を重ねています。
医療にAIを導入することは徐々に有名になってきましたが、まだまだ新しい医療分野への導入の可能性がありそうですね。
参考
WIRED 「受精卵を”診断”するAIは、かくして不妊治療に貢献する」
Medical Tribune 「AI版コウノトリであなたもママに」
それではまた次の記事でお会いしましょう。最後までご覧くださりありがとうございました。